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螺旋階段 2


Chapter 1


 布団と洗濯物が翻るベランダから身を乗り出すと、外の景色が春だった。
 建ち並ぶ住宅地の中に見える薄桃色と若葉色。ああ、春が来たんだな、と暖かな陽射しの下で無意識に微笑んだ。
 布団に頭を乗せると、春の柔らかな陽射しに暖められたそれに包まれて、そのまま寝てしまいたいような気がする。もう一、二時間ほど干したら取り込んで昼寝でもしようかな。……あ、ダメだ。そんな時間から寝たら、夕方の塾の時間に起きる自信がない。
 晶久は悔しそうに一つため息をつくと、パンッと布団を叩いて部屋に入った。


 チャイムが連打されたのは、コーヒーを淹れて飲もうとした時だった。
「ああ、ウザッ」
 その玄関の外でチャイムを連打している主が誰なのかは容易に見当が付く……というか、ヤツ以外にありえない。
「やかましいから連打すんなよっ」
 玄関のドアを開きながらそう文句を言うと、ヤツよりも先に見覚えのある黒いファイルが入ってきた。マンションの回覧板。
「俺だなって、分かりやすくていいだろ」
 そう言いながら智紀は笑った。その姿に晶久の目が点になる。彼は制服姿だった。
「何、今から学校行くの?」
「ん、呼び出されちゃった」
 呼び出された?
 晶久は首を傾げた。教員達ですらまともに出勤していないような春休み中のこの時期に、学校から呼び出されるということは滅多にないはずで。
 晶久の疑問に気付いたのか、智紀は慌てて「あああ、別に悪い意味じゃなくて」と弁解する。
「バスケ部の助っ人。午後から練習試合があるのにレギュラーが一人怪我したんだってさ」
 晶久は頭を抱えて「その呼び出しかよ」と呆れるように言った。
 智紀の運動神経は人並み以上である。頭の方は校内平均を下回ることも多々ある……どころか確実に下回るのだが、運動能力はトップといっても過言ではない。
 元々、智紀は校内でも「入る学校を間違えた男」として有名だった。
 都内でも屈指の進学校。故に「文武両道」の「武」の方はイマイチである。もともと学校側も部活動にはそれほど力は入れていないものの、一応体育会系の部活は一通り存在していた。
 そんな状況の体育会系の部活である。過去に残した成績なんてたかが知れていた。とは言っても、一応やるからには「全国大会」を目指しているらしい。そのため各部は「優秀な人材」を欲していたのである。
 入学直後に行われた体力測定で智紀が叩き出した、高校生男子平均を上回る数値を知ると、各部は凄まじい「藤田智紀争奪戦」を繰り広げたが、彼にはいかんせん肝心な「文」の方に問題ある。最初の中間テストで体力測定の数値とはまるで逆の、それこそ「平均以下」、それも「過去にここまで酷い奴はいなかった」と学年主任に言われる数値を叩き出したがために、特定の部活に所属することは「学校側から」禁止されたのである。「こんな成績取っておきながら、部活なんぞやってる場合じゃないだろう」と。
 そんなわけで、智紀は特定の部には所属していない。一学期の中間テストは「問題の意味自体が分からなかった」という、摩訶不思議な迷言を残したものの、見るに見兼ねた晶久が徹底的に「教育」した結果、一学期期末テスト以降は平均に「かろうじて届かない」という微妙な位置に落ち着きつつあるにも関わらず、各部の部長は「あんな危なっかしいヤツを置いといたら、うちの部が学校側から睨まれて危険だ」と思っているらしく、一時のような「争奪戦」は見られなくなった。
 しかし、智紀は体育会系の部の全てに片足を突っ込んでいると言ってもおかしくない状況だった。
 そう、彼は体育会系各部の「共有財産」なのである。
 晶久はため息をつきながら頭を掻いた。
「バスケ部の助っ人って、あそこは部員が二十人近くいるだろ。何でお前が行く必要があるんだよ」
 智紀は苦笑した。
「あー、なんか因縁の相手らしいんだわ。『ぜってー負けたくないっ!』って佐山先輩、電話口で怒鳴ってたから」
 アホらし。
 晶久は呆れて手で払う仕草をする。
「とっとと行け」
 智紀はその手を掴むと一歩踏み込んできて、晶久をあっという間に抱き締めると無理矢理キスをした。
「うっ……」
 唸ったのは智紀である。直後、その体がくの字に曲がり、腹を押さえて痛みを堪えつつも笑うという、何とも情けない顔をしながら「もうちょっとで舌を入れられたのに」と悔しそうに言葉を漏らした。
 晶久の膝蹴りが見事に腹に入ったようだ。
「油断も隙もありゃしない」
 そう言うと晶久は智紀を玄関から叩き出してドアを閉めた。
 智紀は玄関の戸を叩きながらしばらく何かわめいていたが、晶久はそれを徹底的に無視した。
 五分後、ドアの覗き窓から外を見ると、彼の姿はなかった。




「いやぁ、バスケなんか久々だな」
 そう言いながら智紀が3ポイントエリアから投げたボールは綺麗な弧を描いてリングの中へ。周りはその光景に呆気に取られた。
 今はまだ、練習どころか準備運動すらしていないのだ。その上、学校に着いたばかりの智紀は制服姿のままだった。体育館に入るなり、転がってきたボールを手に取ると適当に放った結果がこれである。
「お前、絶対入る学校間違えただろ」
 智紀はバスケ部の部長である佐山にそう言われ、「それ、聞き飽きた」と苦笑した。
「最初の志望は都立だったんだけどね」
「都立? 何処よ」
「うちから一番近いトコ。チャリで十五分。合格率九割だったんで」
「スポーツ推薦とかは?」
 智紀は「あるわけないだろ」と言いながら、拾ったボールを佐山に投げた。
「中学ん時も部活やってなかったもん。空手は中二で辞めたし」
 中学時代の部活の状況は今と似たようなものだった。そもそもそれほど良い成績を残しているような部なんぞなかったし。まあ、何か一つくらい続けていれば推薦の一つも貰えたんじゃないかと思うが、どうも「これ」というものもなく。中学には武道系の部なんてなかったことだし。
 智紀は自分のバッグを拾い上げると、「着替えてくるね」と言って手を振りながら更衣室へ向かった。
 誰かが「変われるものならヤツと変わりたいよ」と誰かが呟いたが、佐山の「学年主任を絶句させた、あの頭でもか?」という問いに返事はなかった。

「藤田来てるって?」
 そう言いながら体育館に姿を現したのは、戸田、上嶋という、校内の名物コンビだった。
 佐山が露骨にイヤそうな顔をする。
「何しに来た。ホモコンビ」
 その言葉に戸田が露骨に反応。
「うるせーな、サル。テメーに用はない」
「誰がサルだっ!」
「俺は『ホモ』じゃない、『バイ』だ!」
「どっちでもいいわっ! 藤田に何の用だっ」
「藤田に用があるから来たんであって、サルに言う必要はないわっ」
 集まったバスケ部員達はしょうもない口論を聞きながら「レベルはどっちもどっちじゃねーか」と呆れた顔をした。
 上嶋は二人を無視して傍にいた後輩のバスケ部員に問い掛ける。
「で、藤田はまだ来てないの? 本人から今日バスケ部の助っ人するって聞いたんだけど」
「今さっき来て、更衣室で着替えてますよ」
「あ、そ。練習試合は何時から?」
「一応三時から。あと三十分くらいしたら向こうの相手が来るはずなんですけど」
「四時頃には終わってるか」
「多分」
 上嶋は時計を見ると「二時間くらいね」と小さく頷いて戸田に呼び掛ける。
「行くぞ、犬」
 その言葉に周囲の人間が一斉に吹き出した。意味が瞬時に分かったらしい。
「誰が犬だっ!」
 戸田が噛み付くが、上嶋は「うるさい」と言いながら戸田の頭を殴った。
「昔っからサルと仲が悪いのは犬だと相場が決まってるんだ。佐山がサルならお前が犬だろ」
 上嶋は「四時頃また来る」と佐山を指差して言うと、戸田の首根っこを掴んで引っ張った。
「水泳部の部室に篭って何する気だっ?」
 水泳部は二人が所属する部活だったが、実際の活動は屋外プールが使える夏場だけである。生徒の間では「水遊び部」と言われ、その気楽さから所属する部員は三十名を超えるが、夏場以外に水泳部の部室に顔を出すのはこの二人くらいなものだった。
 佐山の問いに、体育館の重い鉄の扉を閉めながら、上嶋が笑いもせずに隙間から腕を中に入れて右手の中指を突き立てた。
「ナニしてて欲しいんだ。テメーは」
 怒らせた時に本当に怖いのは戸田ではなく上嶋の方である。しかし、彼が本気で怒ることは滅多になく、傍から見た今の状況は「怒る」というよりも逆に佐山を「からかっている」ようにすら見えた。
「部室じゃなくて視聴覚室。教員のほとんどいない春休みの学校……って言ったらヤることは一つ」
 その答えを言ったのは、中を覗き込んでいた戸田だった。その顔は妙に嬉しそうで。
「洋モノの無修正ビデオが手に入ったんで、百インチスクリーンで大上映会!」
 その答えにバスケ部員達が一斉に退いた。
「つかぬことをお伺いいたしますが、それって……やっぱりゲイ……」
 百インチスクリーンで無修正ゲイものの大迫力上映会。それもいかにも濃そうな洋モノときたら、まともな高校生男子にはこれ以上恐ろしいものもない。考えただけでも冷汗が出る。
 そんな彼らの恐ろしい考えを打ち消すかのように戸田は「違〜う」と満面の笑みを浮かべた。
「金髪ナイスバディのレズものーっ!」
 そう言うと、二人は体育館の戸をしっかりと閉め、体育館から走って逃げた。
「無修正洋もので……」
「ナイスバディの……」
「レズもの……」
 互いに顔を見合わせたバスケ部員達は次の瞬間、この後の試合のことなど綺麗に忘れ、我先にと体育館から抜け出そうと扉にしがみ付いたが、その扉は押しても引いても動くことはなく、外から鍵を掛けられたと気付いたのは、更衣室から出てきた智紀が事情を聞いて、淡々と「鍵でも掛けたんでしょ」と言った時だった。
 智紀は苦笑しながらもう一つの扉に近寄り、その戸を横に引いた。こちらは難なく開いて外の春風が体育館に流れ込む。
「あの二人、両方とも鍵掛けるようなことしないって」
 そう言いながら外に出て、鍵を掛けられた扉を外から開ける。そして一斉に体育館から転がり出て視聴覚室へ向かおうとする一群の背中に呼び掛けた。
「あの二人がホントにレズもん見てると思う?」
 一群の動きがピタッと止まった。
「視聴覚室に飛び込んだら、スクリーンいっぱいに無修正ゲイものの真っ最中が見えたりして」
 智紀は「間違って一回見ちゃった暁には、夢にまで出てきそうだよね〜」と笑いながら体育館の中へ入っていった。
 戸田、上嶋コンビのやることである。体育館の鍵を全ては掛けないが、バスケ部員達を煽ったヤツらである。
 部員達は名残惜しそうに校舎を見ながら体育館の中へ戻ると、「レズもの見たいよ〜っ」と床に座り込んで情けない雄叫びを上げた。



Chapter 2


 プール用の更衣室横にある水泳部の部室を覗こうとしたものの、その姿がないどころか鍵が掛かっていたので試しに視聴覚室へ行くと、二人は顔を突き合わせて本を睨んでいた。
「ん、ここ違わねーか?」
「ん〜? 合ってるよ」
 智紀は静かに中へ入ると、二人の間にある机の上の本を見た。どうやら塾のテキストらしい。互いにシャープペンを持って計算式を解いていき、答えを突き合わせると戸田が「ほら、やっぱり」と上嶋の手元をペンで突付く。
 その時、二人はようやく智紀の存在に気付いたようだ。しかし特に驚く様子もなく、顔を上げて「よお」と声を掛けるだけだった。
 四時前を指す時計を見ながら上嶋が「早かったな」と言うと、智紀は「部員じゃないからね」と苦笑する。
「何でこんなところで勉強してんの?」
 智紀が近くにあった椅子を引いて腰を下ろすと、戸田は手に持っていた丸めたテキストで彼の頭を軽く叩いた。
「俺ら、もう三年だぞ。受験だよ、受験」
 智紀は再びテキストを覗き込む。小難しい数式に頭が痛くなってきた。
「お前、他人事だと思ってるかもしれんが、来年の今頃は我が身だぞ」
「その頃には先輩達の進路も決まってるだろうね」
 智紀は嫌味のつもりで言ったのだが、相手が少々悪かった。その嫌味は嫌味として通じなかったのだ。
 上嶋がさらりと言った。
「ま、私大の滑り止め受けて、センターで近場の国立に引っ掛かればいいしな」
 戸田も頷く。
「別にキャリア官僚になりたいわけでもないし。就職しそびれたら修士取ってもいいしな」
 戸田は国公立理系特進クラス、上嶋は国公立文系特進クラスで、常に学年で十位以内をキープしている頭の持主である。彼らの一年後の進路に「浪人」という単語は存在すらしていないようで、一時は進級すら危ういのではないかと言われた智紀の嫌味が嫌味として聞こえるはずもなかった。
 嫌味は相手と言葉を選ぶべし。そんなことを悟った一瞬だった。
「で、相談って何さ?」
 戸田がそう尋ねた瞬間だった。
 廊下からバタバタと複数の足音が聞こえ、徐々に近付いてくると、視聴覚室のドアが勢いよく開いた。入ってきたのは見覚えのある顔が多数。
 バスケ部の面々である。
「先輩っ! マジでレズもんっすかっ?」
 戸田と上嶋は思わず顔を見合わせて、同時にニヤリと笑うと彼らに向き直り、「マジマジ」と頷いた。
「見てぇ〜っ!」
 というか、もう見せてもらう気満々なのだろう。バスケ部員ではない智紀がここに来てから十分と経っていない。ミーティングもそこそこに、彼らが慌ててここに走ってきたことは容易に想像できることで。
 上嶋は智紀の顔を見ると、机の上のテキストを片付けて鞄に仕舞った。そして一枚のDVDを取り出す。
「ここじゃ話すのは無理っぽいから、部室に行くか」
 そう小声で囁くと、彼らにそのDVDを手渡した。バスケ部の連中はいそいそと暗幕を引き、スクリーンの準備をする。その様子を見ながら視聴覚室を揃って出た。
「ま、ごゆっくり。じっくり見てから返してね」
 そう言い残すと出入り口にも暗幕を引き、ドアを閉めると、何処に隠しておいたのか、突っかえ棒を扉に仕掛けた。通常開け閉めする外側の戸は開かなくなるが、反対の内側にある引き戸は開けられる。……が、こんな仕掛けをするということは……。
 さっさと歩き出した二人を追い駆けて智紀が尋ねた。
「先輩、あれ、もしかして『ゲイもの』っすか?」
 その問いに二人はニヤリと笑う。
「さっき、ちゃんと教えてやったのにな。『無修正ビデオ』って」
「誰も『DVD』なんて一っ言も言ってないよな?」
 そう言って戸田は、自分の鞄から一本のビデオを取り出した。
「これが本物」
「あれはネットで落としたゲイの3Pもの」
 智紀は「うげぇ」と言いながら渋い顔をする。
「何でそんな物持ってるんですか」
 上嶋は極上の笑みを浮かべた。
「嫌がらせ用に決まってるじゃないか」
 智紀の背中に悪寒が走る。一番敵に回したくないタイプの人間がそこにいた。
 そして視聴覚室からこの世の終わりであるかのような悲鳴が響き渡ったのは、それから間もなくのことだった。




 水泳部の部室はフローリングで、六畳ほどの広さである。そこにローテーブルが一つと、壁際に天井まである大きな本棚が一つ。そこには水泳雑誌と本、過去の名簿や記録などのファイルがギッシリと詰っていた。
 校舎の影になるので中は薄暗いが、掃除も整理整頓もされていて綺麗で、入ることを躊躇するような空間ではなかった。そもそもあくまでも「部室」であって、「更衣室」ではない。他の体育会系部活の部室は道具置き場や更衣室をも兼ねているのに対し、水泳部は通常授業で使用される更衣室を使い、用具自体も同様に授業で使うものであるので用具室に置いてあるため、ここはあくまでも水泳部としての資料置き場とミーティングルームとしてしか使われていなかった。まあ、あとは二人の密会用スペースとしても使われているようなのだが……。
 テーブルを囲んで座ると、戸田が再び尋ねてきた。
「で、何?」
 その問いに、智紀は深いため息をついて顎をテーブルに乗せた。
「どーやったらラブラブになれると思う?」
 内容としては率直だが、肝心な単語が抜けているのも確かだ。
 二人はテーブルに肘を突いて目を丸くした。
「……何かやったわけ?」
 肝心な単語が抜けているのにも関わらず、話が通じているのは、今回の相談の前にも同様の内容の相談をしていたからだ。
『学年主任をも呆れさせたバカがいる。しかし運動神経はいいらしい』
 そんな話を聞いて、戸田が智紀を見に行ったのは梅雨明けの時期だった。別に水泳部としてスカウトに行ったわけではない。ただの興味本位でしかなかった。
 智紀の方にしてみれば、噂に聞いていた校内の名物コンビの片割れが来たのは驚いたらしい。しかし、彼は部に誘うわけでもなく、五分ばかり話をして、「暑くなったら遊びにおいで」と誘われたので、後日素直に遊びに行ったのが最初の時期のやりとりだった。
 二人は以前から「ホモコンビ」と言われていて、仲が良いのは確かだったが、その確証はなく、智紀はその噂話に首を傾げていたのだが、あれは秋口のこと。遊びに行った水泳部のこの部室で偶然、濃厚なキスシーンを目撃してしまったことから、二人の関係が噂などではなく「本物」であることを知る。(しかし共に「バイだよ」と言い張るのだが、そちらの確証は取れていない。)
 それが智紀が晶久への想いを抱えて悶々としていた頃でもあったから、済し崩し的に「相談」するに至ったのである。
 しかし、この二人が智紀にアドバイスしたことといえばたった一言。
「押し倒しちゃえば?」
 これだけである。
 言う方も言う方なら、本当にやる方もやる方である。言われるがままに晶久を押し倒して一週間口も聞いてもらえなかったのはご存知の通り。
「なかなか心を開いてくれなくてね〜。キス一つするのも命懸けさ」
 そう言いながら智紀は腹を擦った。出掛けに膝蹴りを食らった腹が、思い出すだけで痛くなる。
「先輩達はどういうきっかけでくっ付いたワケ? 高校入ってから出会ったんでしょ?」
 智紀が恨めしそうな顔をしながら二人を睨んだ。二人は互いに顔を見合わせて「うーん」と唸る。
「何か気が合ったんだよな」
「んー。で、何かの拍子にこうやって見つめあってたらキスしたくなってな」
 そう言いながら、二人の顔の距離が狭まっていく。互いの表情が艶を帯び、唇が僅かに開いた次の瞬間、二人は同時に智紀を睨む。そしてほぼ同時に手を伸ばすと、彼の目を手で塞いで目隠しした。
 …………ちくしょ〜。何やってんだよっ。
 視界はすぐに明るくなる。二人の表情は元に戻っていた。
 上嶋が少々呆れたような顔で智紀を見下ろす。
「しかし、ホントに押し倒すとは思わなかったけどな」
「先輩がやれって言ったんじゃん」
 上嶋が何も言わずにじっと見つめるその目は、何よりも雄弁に彼の心情を語っていた。
 バカじゃねーの、こいつ……。
 そして上嶋はチョイチョイと指先で智紀を招いた。「何?」と言いながら何の疑いもなく寄ってくる智紀をあっという間に押し倒し、その腹の上に馬乗りになった。
「3Pやらねぇ?」
「……………………は?」
 呆気に取られている智紀は、その意味が理解できない。上嶋がチラリと横目で戸田を誘うと、彼の意図を瞬時に察した戸田は「面白そうだな」と笑みを浮かべて智紀の顔を覗き込み、その頬を優しく撫でた。
「予行練習も兼ねてどうだ?」
 智紀は「冗談でしょ?」と言いながら顔を引きつらせる。
「冗談じゃないって」
 それが本当に冗談ではないというのは、馬乗りになった上嶋が太股の上に移動して、ベルトに手を掛けた時に分かった。
「ちょっ、やめっ……」
 置き上がろうとしたが、戸田に肩を押さえられて身動きが取れなかった。カチャカチャと金具の音がしてベルトが外されると、上嶋は制服のズボンに手を掛ける。
 そちらに気を取られていると、戸田がネクタイに手を掛けてスルリと外し、ブレザーとワイシャツのボタンを一つ一つ外していく。
 何とか逃げようとしてもがくと、よりによって股間と胸を撫でられるのだ。それに反応してしまいそうになる自分が嫌だった。
「やめてっ……」
 下着に手が掛かった時に智紀が弱々しく漏らした言葉で上嶋が立ち上がった。戸田も素直に離れていく。
「お前が深谷にやったのはこういうことだって」
 上嶋は智紀の顔を覗き込みながら、諭すようにそう言った。
「覚悟も心の準備も出来てないヤツを襲うのは強姦。相手を落とすどころか傷付けるだけ。特に同性なんだからさ。抵抗もあるだろうよ」
 そして上嶋は智紀の隣に腰を降ろすと、ズボンを元に戻し、ワイシャツのボタンを留めてやる。
「焦る気持ちはわかるけどさ。また口聞いてもらえなくなるぞ。今度ヘマしたら、それこそ『幼馴染み』の地位も危うくなるだろうよ」
 戸田が智紀を起こすと頭をくしゃくしゃと撫でた。
「とりあえずキスすることに違和感なくなるまで頑張れ」
「違和感って……」
「俺らみたいに、目と目が合ったら思わずキスしたくなるような状態になるまでな」
 それは……果てしなく長い道程のような気もするんだが……。
 智紀は呆気に取られつつも、両脇に座る二人を交互に見比べた。浮かべているのは優しい笑み。俯いてしばらく何かを考えていたが、一つ頷くと「そうだね」と顔を上げて笑った。
 戸田は智紀の肩に腕を回すと、グイッと抱き寄せてその頬にキスをする。突然のことに、智紀は呆気に取られた。
「いやー、藤田、マジでカワイイわ。せっかくだから、ホントに3Pしない?」
 次の瞬間、智紀はものすごい勢いで部屋の隅に逃げていった。上嶋が戸田を呆れた顔で見る。
「お前、藤田をからかうのも程々にしないと……」
 しかし戸田は首を横に振る。
「俺、マジなんだけど」
 すると上嶋はじっと智紀を見つめた。見つめられた智紀は壁に張り付いて、イヤイヤと懸命に首を振っている。
 上嶋は戸田の顔を見た。
「……お前の気持ち、ちょっと分かるわ」
「だろ? 3Pなんてなかなか出来るものでなし」
「ちょっとアホな小動物っぽくてカワイイよな」
 智紀は壁伝いに移動すると、あっという間に出入り口に辿り付き、靴を引っ掛けると転がるように部室の外に飛び出した。
 中からは二人の笑い声が聞こえてくる。
 本気か冗談かはこの際どうでもいい。ただ、いろんな意味で「身の危険を感じた」ことは確かだ。
 あの二人だったらやりかねない。理由はそれだけで充分だと思った。
「……本っ当に敵に回したくないタイプの人間だな」
 気に入られていてコレである。敵に回した暁には、一体何される事やら……。



Chapter 3


 隣の家のチャイムを押すと、顔を出したのはおばさんだった。
「あら、智ちゃん。晶久、まだ塾から帰ってきてないのよ」
「あ、そっか。忘れてた」
 いつもは塾のない曜日だが、春休み中は春季講習で晶久はほぼ毎日塾通いなのだ。
 智紀が戻ろうとすると「そろそろ帰ってくる頃だから中で待ってたら」と呼び止められ、その言葉に甘えることにした。
 リビングのテレビはニュース番組がついていた。ダイニングのテーブルの上にはノートパソコン。書類らしきものが広がっているところを見ると、どうやらおばさんが仕事をしていたらしい。
「あ、お仕事中だったら帰りますよ」
「ああ、気にしないで。大したもんじゃないから」
 晶久の母は市役所勤務の公務員だった。女性ながらも、それなりの役職の人らしい。こうやって家で仕事をしていることが度々あった。
「それに晶久がいないと私一人だから。藤田さんには悪いけど、男の子がいてくれると安心できるのよ」
 深谷家は本来五人家族なのだが、現在この家にいるのは晶久と母だけである。
 深谷家の家長である父は、大手都市銀の銀行員で、昨年から大阪本店を立ち上げる為に赴任中。
 晶久には八つ上の双子の兄がいるが、長男・武志(たけし)は大学卒業後に家電メーカーに入社したものの、いきなり大阪支社に飛ばされた。次男・裕志(ひろし)は進学した大学自体が京都で、現在は大学院で物理学の研究中。博士号を取る気で、当分戻って来る気はないらしい。
 そんなわけで、「深谷家・関西チーム」と銘打った父と兄二人は、大阪のマンションで共同生活を送っている。
「智ちゃん、夕飯食べた?」
「あ、はい」
「甘いもの平気だっけ?」
「全然平気っすよ」
「シュークリームがあるんだけど、食べない? 晶久、あんまり甘いもの得意じゃないから。一人で食べるのも空しいのよね」
 智紀は思わず両手を上げた。その様子に彼女は嬉しそうに笑う。
 お茶と共に出されたシュークリームに齧り付き、ぺロリと食べ切るのに一分と掛からなかった。お茶を啜りながら時計を睨む。
 そろそろ帰ってきても良さそうなんだけどな……。
 彼女も同じことを考えていたらしい。時計を見ながら「遅いわね」とため息をついた。
 智紀は不意にカーテンの隙間から窓の外を見る。そこから見えるのは駅とは逆の、住宅地の明かりが広がる光景だが、この時期ばかりはいつもと違っていた。
 満開になった桜の花を照らすようにライトが灯っていた。街のあちらこちらで桜の花が暗闇に浮かんでいる。それは綺麗な風景だった。
 智紀はふとあることを思い出し、晶久の家を出た。通路の最奥にある晶久の家の更に奥には、非常階段を兼ねた螺旋階段がある。鍵の掛かっていない防火扉を開けて螺旋階段の中に入ると、周囲をぐるりと見回した。
 探していた影は半階上の階段に腰を降ろしていた。
「やっぱりここにいた……」
 コートに身を包んだ晶久は夜の街を眺めていた。彼は智紀の姿を見ると一瞬、驚いたような顔をする。
「何でココが分かった?」
 その問いに、智紀は思わず苦笑した。
 だってこの螺旋階段は、お前が一番好きな所じゃないか。春の桜も、夏の陽炎も、秋の夕日や紅葉も冬の雪も、季節の色に染まった街の風景をここで眺める時の顔が、一番安らいでいるように見えるのだから。
 ほぼ同じ風景が自分の家のベランダから見えるというのに、それでもここが好きなんだ。
 智紀は階段を上り、晶久の隣に腰を降ろした。
「風景眺めてるのはいいんだけど、寒くないの?」
 智紀の問いに、晶久は「いや、別に」と首を振る。その返事に、思わず互いの格好を見比べた。
 ……愚問だった。
 コートを着ている晶久に対し、智紀は長袖のTシャツに厚手のシャツを羽織っただけ。温かくなってきて、部屋で過ごす分にはちょうどいいが、陽の沈んだ夜の風には肌寒かった。
 智紀が「寒い」と言いながら晶久にくっ付くと、彼は首に巻いていたマフラーを外して智紀の首に巻き付け……るどころか、力を込めて締め付ける。智紀の喜びは一瞬にして恐怖に変わった。
「やめれ〜っ」
 マフラーが緩み、ホッと安堵のため息をつくと、晶久は隣で楽しそうに笑っていた。「笑い事じゃないって」と言いながら彼の頬に拳を当てて軽く押すと、晶久は笑いながら力に逆らうことなく首を向こうへ倒す。
 晶久は手を伸ばして後ろに置いた鞄に手を伸ばした。そしてそれを掴むと立ち上がり、コートの尻に付いた砂埃を叩く。
「帰るか」
 頭上から聞こえてきた声に顔を上げると、晶久が笑顔で智紀を見下ろしていた。智紀は思わず手を伸ばす。その意味が通じたらしい。彼はその手を掴んで上へと引き上げた。
 その力に導かれるように立ち上がるが、智紀はその手を離すことが出来なかった。不自然に手を繋いだまま、同じ高さの視線がかち合う。その目に吸い込まれるように顔を近付けたが、晶久の視線は下に落ち、繋いだ手を見ていた。
「冷たい」
「え?」
「手が冷たいって言ってんの。さっさと戻るぞ」
 そう言って彼は階段を降り始める。繋いだ手に引っ張られるようにその後を追った。
 手なんか久々に繋いだ気がする……。
 智紀は先を行く晶久の背中を見ながら嬉しそうに微笑んだ。


 遅めの夕飯を食べている自分の目の前で、二人が違うものを食べていた。晶久は呆れた顔で正面に座る母と右斜め前に座る智紀を睨む。
「人が飯食ってる時に、食ってるものと違う、甘ったるい匂いさせんな」
 二人は本日二個目のシュークリームに齧り付いていた。
「はいはい、悪うございましたね」
 そう言いながら母は湯飲みを持ってリビングのテレビの前に移動するが、智紀は手元のシュークリームと晶久の顔を見比べると、残り半分を口の中に放り込む。
「ふぁい、ないな〜い」
 頬を膨らませて両手を振っているマヌケな智紀の姿に、晶久は思わず飲んでいた味噌汁を吹き出した。
「きたねーな」
「お前が目の前で馬鹿なことやってるからだろっ!」
 文句と同時にテーブルの下では蹴りが飛んでいたのは言うまでもない。
「そもそも、何でお前、当たり前のようにそこにいるんだ」
 本当はもっと早く気付くべきことだった。螺旋階段からの流れで、何となく手を繋いだまま家に入ったが、智紀も当たり前のような顔をしながら付いてきて目の前にいる。
「智ちゃん、お前が帰ってくるの待ってたのよ」
 智紀は茶を啜りながら何度も頷いた。
 人の親を味方に付けるなっ!
 晶久の蹴りがもう一発飛んできた。

 部屋に入ると晶久は机に向かい、智紀は当たり前のように彼のベッドに寄り掛かる。
 晶久はとりあえず智紀を無視しようとするが、それを気にすることなく、智紀は口を開いた。
「今日さ、戸田・上嶋コンビに襲われ掛けてさ……」
 晶久の興味を引くにはもってこいな話題だったようだ。彼は勢いよく振り返り、床に座る智紀を見下ろした。
「……………………」
 何かを言いたそうにしている晶久の表情を読み取り、智紀は「冗談じゃなくてマジだからね」と苦笑する。
「……バスケ部の助っ人だったんじゃねーの?」
 その問いに智紀は頷いた。
「助っ人よ。ちゃんと仕事は果たしたよ。出場メンバーの中で一番ポイント決めたさ。……勝敗はともかく」
 ということは、つまり「自分の役割は果たしたが、自分以外がまるでダメだったがために勝ちは逃した」と言っているようなもんだ。
「で、何で襲われるんだよ」
 智紀はどう説明しようか悩み、唸りながら頭を掻いた。あの二人に自分達の関係が知られていることを晶久が知ったら、途端にこの部屋から叩き出されるのは確実なわけで。
 眉間に皺を寄せて唸りながら悩んでみるが、上手く取り繕えるような解説は出来そうになかった。とりあえずは適当に誤魔化すしかない。
「あのコンビも学校に来ててね。で、まあ色々と話をしてたわけだ。が、何がどうなったんだかよく分からないんだが、上嶋先輩に押し倒されて、それに戸田先輩の乗ってきたと。『ちょっとアホな小動物っぽくてカワイイ』んで『せっかくだから3Pやらない?』だとさ」
 晶久は呆れた様子で頭を抱えていた。
「冗談が冗談じゃなくなってきた辺りから『ヤバイ』と思って逃げたけどね」
 そう言うと智紀は腰を降ろしたまま晶久の座る椅子に寄り、彼の顔をじっと見上げた。晶久は椅子の背凭れに肘を乗せ、不思議そうな顔で智紀を見下ろしている。
「とりあえず『悪かったなぁ』と思って」
「何が?」
「押し倒したこと」
 晶久は智紀を軽く蹴っ飛ばした。
「今更……」
「ん。今更だとは思うけどね。俺も今日、怖かったんで、『ああ、晶久もこんな感じだったのかな』と……」
 そう言いながら晶久の目を見ると、彼はスッと視線を外した。今までは目を見ても視線を反らされることはなかったが、あの一件以来、彼は視線を合わせることを極力避けている。
 智紀は晶久の足を掴むと膝立ちになった。そして彼の胸倉を掴む。
「悪かった」
 そう言うものの、晶久は顔を引きつらせながら智紀の頭に拳を落とした。
「『悪かった』って言いながら、人の胸倉掴むヤツが何処にいるっ!」
 しかし智紀は開き直る。
「ここにいるっ! っていうか、謝ろうとしてんのに視線反らすなよっ!」
 その言葉に、今度は晶久が智紀の胸倉を掴む。
「隙を見せたらテメーは何やらかすか分かんねーだろっ! さっきも階段でキスしようとしたじゃねーかっ!」
「しょうがないじゃないかっ! 好きなんだから!」
 智紀が立ち上がって、椅子に座る晶久を押し倒したのはその直後だった。唇が合わさり、勢いのまま晶久の体が背後へ倒れ込む。
 倒れ込む……が、そこに背凭れはなかった。当然だ。背凭れは晶久の「横」で、今さっきまで彼が腕を乗せていたのだから。
 晶久は慌てて腕を乗せていた椅子の背凭れを掴もうとするが、何を勘違いしたのか、その手を智紀が払い除けてしまう。
「あっ!」
「えっ?」
 予想外の状況に、お互い咄嗟に対応できるはずもなかった。ドスンッと重い音が響いて、共に椅子から転がり落ちてしまった。
 晶久の上に智紀が乗っていた。額がぶつかり、互いに「痛い」と顔を顰める。晶久は自分の上にいる智紀に「退け」と文句を言うものの、足を椅子に乗せたままの晶久に対し、智紀は体がエビ反りになり、足を引っ掛ける場所を探して、ただもがくだけだった。倒れ込んだ空間は狭く、椅子を倒すかズラすかしないことには、身動きが取れない。しかし、その椅子を倒す場所もなく、ズラすこともできず……。
「何、騒いでんのよ」
 突然響いた音に驚いたのか、晶久の母が部屋に入ってきた。
「おばさん、助けて〜」
 智紀の情けない言葉に、晶久の母は苦笑しながらその足を掴んで自分の方へ引っ張った。小柄な女性だが、さすがは男の子三人の母である。その力は大の男を動かすくらいは訳無いようだ。
「あんたたち、一体、何やってたのよ」
 そんなことを問われても、理由なんぞ説明できるはずもなかった。この世の中の何処に「あなたの息子を押し倒してました」と言える男がいるのか……。
 晶久の母の力を借りて起き上がった智紀は、自分の手を伸ばして晶久の体を起こす。互いに顔を見合わせて自分の額を擦るが、その様子を見た母が、二人の前髪を同時に掻き上げた。
「あら、タンコブ出来てるじゃないの。いい歳して二人とも何やってんのよ」
 母は呆れながら部屋を出ると、湿布を持って戻ってきた。晶久の机からハサミを取ると、一枚の湿布を半分に切って、二人の額にペシッと貼り付ける。
「もう、幼稚園はとっくの昔に卒園したんだから、十年前と同じことやらせないでちょうだい」
 そう言うと湿布薬の袋を閉め、ため息を吐きながら部屋を出ていった。
 二人は額に湿布を付けた互いの顔を見て、思わず吹き出した。十年前はそこら中を一緒に走り回って傷だらけになり、あちこちに絆創膏が絶えることはなかった。
「なんか昔に戻った気がする」
 どちらともなくそう呟いて、また苦笑した。
「傷作った理由だけは歳相応っぽいけどね」
「っつーか、もう少し状況を考えろよ」
 晶久の言葉に、智紀は目を丸くして彼の顔を覗き込んだ。その様子に、晶久は不思議そうな顔をしている。
「…………何?」
「いや、それって状況を考えたらキスしてもいいのかと……」
 晶久の顔が瞬時に真っ赤になった。
「そんなこと言ってない!」
 その顔が妙に可愛かった。智紀は「はいはい」と言いながら顔を近付ける。晶久の顔が退いたが、さっきの件があるせいか、とことんまで逃げる気はないようだ。頭を押さえて唇を捕まえると、空いた腕を腰に回して抱き締めた。
「やっばりそう簡単には諦められないのよ。この恋はね」
 唇を離すと智紀がそう囁いたが、それに反論するかのように晶久はドンッと智紀の胸を叩く。
「感情の赴くままに突っ込んできて、巻き込まれて怪我までさせられる身にもなってみろ」
 晶久の低い声がした。智紀は「ゴメン」と言いながらその頬にキスをする。
「でも、怪我したくなかったら、逃げなきゃいいのさ。悪いけど、逃げるなら何処までも追い駆けるよ。俺はね」
 晶久は顔を顰めていた。その嫌がる感情すらも包み込むように、智紀は彼をギュッと抱き締めた。
「追い駆けっこで怪我するより、恋の炎で火傷したいところなんだけどね〜」
 智紀のあまりにもバカバカしい一言に、脱力した晶久はその腕から滑り落ちていった。
「あり?」
 智紀は目を丸くして腕から抜け落ちた晶久を見つめる。彼は呆れたような顔で智紀を見上げた。
「…………お前がここまでバカだとは思わなかった……」
 そして彼はベッドに凭れ掛かると、いつまでも楽しそうに笑い続けていた。


螺旋階段2・END


螺旋階段 1 Chapter1〜3/一括表示
螺旋階段 2 Chapter1〜3/一括表示


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